
足早に近づいみると、昨夜とはまったく様子が違います。
軒先に吊るされたランプは、ついたり消えたりを繰り返し、今にも灯りを失ってしまいそうです。
「どうしたんだろう…」
それでも彼は、昨夜のキラキラしたランプたちが忘れられず、
胸が高鳴るのをおさえながら深呼吸をすると
ゆっくりと扉をあけました。
部屋を見回すと、期待した魔法のような温かい灯りはどこかへ消え、薄暗い光景が広がっていました。
ランプたちは、すっかり弱ってしまっていたのです。
天井や壁も朽ち果て、棚も今にも崩れ落ちそうでした。
彼は胸が痛むのを感じながら、そっとランプをなでました。
ランプに触れた指先からは哀しさが伝わってきました。
「一晩でいったい何があったんだろうか…」
「こんばんは、どなたかいませんか。」
ここがお店なら誰かいるはずだ...そう思い声をかけましたが、やはり返事はありませんでした。

何か居心地の悪さを感じ、小屋を出ようとしたその時、
「ミャーン」
と後ろから声がしました。
驚いて振り返ってみると、
【会計】と書かれた小さな机の上に一匹の猫がお行儀よく座っていました。
茶トラに白い靴下をはいた模様のその猫は、短いながらも美しい
もふもふとした毛に覆われていました。
「えっ、あっ、こんばんは。お邪魔してます。」
猫は、驚いて立ちすくむ彼の足元に擦り寄ると、
奥の方へと歩いていきました。
彼が戸惑いながら猫のあとについていくと、
猫は奥の扉の前で開けてほしいと言わんばかりに座って待っていました。
「開けるのかい?」
問いかけに、猫はゆっくりと瞬きをしました。
「昨日はこんな扉はなかったはずだが…」
そう思いながら彼は扉をあけ、猫のあとについて中に入って行きました。
中は薄暗く、部屋の様子はほとんどわかりませんでした。

ランタンで部屋を照らしてみると、
ぼんやりと様子が映し出されました。
荒れ果てた机、作業台…錆びた工具や古びた道具たち。
そして、ほこりをかぶったひょうたんや流木が至る所に転がっていました。
「ここは工房なのだろうか…」
「ミャーン」
猫は悲しげに彼をみました。
彼もなぜだか、とても哀しい気持ちになりました。
錆びついた工具たちを見て、他人事とは思えませんでした。
古びた油と布を見つけると、机にすわり
ひとつひとつ丁寧に手入れをしてあげました。

工具の手入れが終わると、ひとつのひょうたんが目にとまりました。
彼は、そのひょうたんをそっと手に取りほこりを払いました。
「なんて繊細なんだ…」
初めて触れるひょうたんは、驚くほど軽く繊細で、とても美しいものでした。
「僕も作ってみようかな…ひょうたんのランプ。」
ぽつりと彼が言いうと
猫はふたたび、ゆっくりと瞬きをしました。

さっそく手入れしたばかりの工具を手に取ると、
薄暗い部屋で夢中になってひょうたんに穴をあけていきました。
どのくらいの時が経ったかわかりません。
ここにいると時が止まっているかのように感じ、
時間の感覚がなくなってしまうのです。
「できた。」
猫は作業が終わるまで、ずっとそばで見守っていてくれました。
「待っててくれてありがとう。」
「ミャーン」
「さっそく、灯りをともしてみよう。」
