「ミャーン」

ふたたび猫の声が聞こえました。


「やっぱり、呼んでいる。」


目を開けると、ぼやけた目線の先に
ゆらゆら揺れるかすかな灯りを見つけました。

風はまだ吹き続けていました。

呼吸を整え、かすかな灯りをたよりに歩いてくと、
やがてそれは、弱い灯りへと変わり、

目の前に小屋が静かに姿をあらわしました。


「やっと会えた..」


軒先に吊り下げられたランプは、強い雨風に吹かれ激しく揺れていました。


この日、風はやまなかったのです。

昨夜より弱くなっていた軒先の灯りは、彼がたどり着くと静かに消えてしまいました。


「灯りをともし続けてくれていたんだね。暗闇のおかげで気づけたんだ。」

「ありがとう。助かったよ。」


彼にはランプの気持ちがすぐにわかりました。


「さあ、中に入ろう。」


扉を開けると同時に、彼は言葉を失ってしまいました。

部屋の中は真っ暗だったのです。

ランプたちは灯りを失い、すっかり古びてしまっていました。

天井からは、ぽとりぽとりと雨漏りがしています。

足を踏み入れると、床はしっとりと重く、ミシミシと音を立てていました。


「ひとつの夢が終わってしまったかのようだ…」


なぜ、こんなことになったのか…どうしたら良いのかわかりませんでした。


気を取り戻して奥の扉に目をやると、隙間から淡い灯りが漏れていました。


「猫はきっとあそこにいる。」


彼は少しの希望を取り戻しました。

「トントン」


扉をそっとノックすると「ミャーン」と猫の返事がかえってきました。
彼はとてもほっとしました。


中に入ると先程の部屋とは全く違い、

雨漏りもなく、部屋中が温もりで包まれていました。


昨夜彼が作ったランプは、キラキラと部屋の隅々まで照らし、優しい灯りを放っていました。

彼のランプは魔法を失っていなかったのです。


冷えきっていた体も、ランプの温もりですっかり温まっていきました。

「こんばんは。約束どおり会いに来たよ。」


彼はそっと猫の頭をなでました。

猫はうっとりした顔で彼を見つめると、ゆっくりとまばたきをしました。

そして、机の上に乗ると前の壁を見上げました。

そこにはとても古く、ほこりをかぶった額縁が飾られていました。


目を凝らして見ると、色褪せた絵の中にはひょうたんを持ち微笑んでいるひとりの男が描かれていました。


「昨晩はランプ作りに夢中で、気づかなかったな。」


もっと近くで見ようと、額縁にそっと触れた瞬間、
視界は突然真っ白になり、絵の中の男の映像が目の前に広がりました。

白髪まじりの初老の男が、猫に手を振りそっと小屋を出て行きます。


猫はとても寂しそうに男の後ろ姿を見ていました。

そして、何日も【会計】と書かれた小さな机の上で、男の帰りを待っているようでした。


「ここの主の自画像か…」


映像がとぎれ、我に返ると

彼は急になんだか申し訳ない気持ちになりました。


人の気配がないのをいいことに、何度も勝手に入り込んでいたのです。

ここの主は、また戻ってくるかもしれないのです。


「勝手に入ってきてごめんね。」

「もう帰らなくちゃ。」


そう猫に伝えると、猫は首をかしげ、彼が持っている額縁の前にやってきました。

そして、大きく目を見開きました。