猫は毛を逆立て、

額縁は、はげしい光を放っちました。


あまりの眩しさに彼は目を閉じました。

すべては一瞬の出来事でした。

「ミャーン」の合図で目を開けると

自画像は、初老の男ではなく自分に変わっていたのでした。

しばらく、言葉がでませんでした。

ただただ額縁の中の自分を見つめていました。


猫は額縁に擦り寄ると、とても大切そうに

なんどもなんども頬をこすりつけてきました。


そしてお行儀よく座り直すと

彼を見つめ、ゆっくりとまばたきをしました。


「今日からあなたがここの主だよ。」


猫は確かにそう語りかけていました。

「きっと、ここの主は何らかの理由でもう戻らないのだろう。」


しばらく考えましたが、彼に迷いはありませんでした。


「うん。」とうなずくと、
猫にゆっくりとまばたきのお返しをしました。

さあ、新しいランプ屋さんの始まりです。


閉ざされていた窓は開き、柔らかい風が工房に吹き始めました。

風は工房をかけめぐり、そこにあるすべての物を蘇らせました。


ひょうたんたちは、艶を取り戻し、流木たちは力強さを取り戻しました。

錆びていた工具も、古くなった道具たちもすっかり目を覚ましました。


扉をすり抜け、真っ暗な入り口の部屋へとむかった風は、
こちらの窓も開け放ち、ぼんやりと灯りをまといながら

古びてしまったランプたちに優しくあいさつをしてまわります。


ランプたちは一瞬の間、強く優しい灯りを放つと

役目を終えたかのようにそっと消えていきました。

そして、いつの間にか風もどこかへ消え、部屋はふたたび暗闇に包まれました。

しばらくの間、彼は静寂の中で目を閉じ、ここで起きたたくさんの出来事を思い出していました。


「ミャーン」


猫に呼ばれて目を開けると嵐はすっかり止み、窓の外は明るくなり始めていました。

そして、みるみるうちに明るい光が部屋に差し込み、朝を迎えました。


朝日に照らされた小屋はキラキラと輝き、温もりを取り戻した棚と、小さな机も喜んでいるかのように見えました。

彼は、前の主がいたであろう頃の、温かな賑わいを感じました。


「さあ猫ちゃん、今夜から忙しくなるぞ。ランプ屋さんの始まりだ。」


外に出ると、朝日がこの世のすべてを眩しく照らしていました。

彼はとっくに朝になっていても、もう不思議には思いませんでした。

小屋にいる間も、確かにそれだけの時の流れを感じていたからです。


今度こそ本当に、この小屋に時の流れが戻ったのです。

「主をうしなったこの小屋は、新しい主を探していたんだ…」


この出来事を境に、彼は夕暮れ時になると、お手製のお気に入りのランタンを片手に小屋へ向かいました。


彼が浜辺に着くと、小屋は当たり前のように現れ
猫がお迎えをしてくれました。

そして、ランプを夢中で作り続けたのでした。


「たくさん穴をあけると、まるで宇宙みたいだ…」


試しに、流木の台座にひょうたんをのせてみると
穴からもれた灯りは天井や壁中に広がり、彼自身をも癒やしました。


「このランプを使う人も、癒やされてくれたらいいな。」


そう思いながら、彼は丁寧に作り続けました。

その姿を猫は横で見守りました。
時には居眠りをしながら。


彼はいつも見守ってくれる相棒の猫にベッドをプレゼントしました。

「僕らが出会った記念だよ。」

そしてある日、彼は丸い形をしたひょうたんを見つけました。

「なんて可愛らしい形なんだろう!」
「よしこのひょうたんで素敵な作品を作ろう。」

何日も作り続け、やっとひとつの作品が出来上がりました。


作り上げたひょうたんを流木の台座にかぶせ、
いよいよ最後の確認をします。


スイッチを入れると部屋中に無数の灯りが広がりました。


ふたりは床に寝転ぶと、しばらくのあいだ部屋中に広がる灯りに見入っていました。


「完成したね。ほんとに宇宙の中にいるようだ。」

「さあ、いよいよ、君の出番だよ。」


猫はまばたきをすると、ランプに近づき大きく目を見開きました。

ランプは輝きを増し、温かい優しい灯りをともしました。


「本当に素敵な魔法だ。」

「そうだ、君の名前はもふもふ部長にしよう。ここのランプたちを守ってくれてるからね。」


猫はとてもうれしそうでした。